白馬の背中に乗せられたAP赤道儀くんは、しばらく意識を失っていました。気づいたときには、目隠しこそなかったものの手足を縛られ、台の上に乗せられていました。
その部屋は、薄暗くろうそくで照らされていました。香の匂いが漂い、祈祷の声も聞こえてきます。横の台には、見慣れないネジやモーターやベルトが見えます。ここはどこなのでしょう。
人の子のような者が暗闇に立っていました。AP赤道儀くんは勇気を持って声をあげました。
「ここは軍なのか、軍部なのか!」
「我々は御使いである」
響くような声で、そう答えた人の子のような者は、その右手に7つの六角レンチを持ち、左手には真新しいナットドライバーがありました。顔は、強く照りかがやく太陽のようでした。そして、人の子のような者は、AP赤道儀くんに近づき、赤緯体のカバーを取り外そうとしています。
「オレをどうしようって言うんだ。やめてくれ! 飼育員さん! お母さん!」
「願いは聞き入れられたのだ」
逃げようにも、縛られた手足が動きません。
動けば動くほど、手足がきつく締め上がってしまうのです。
香の匂いをかいだせいか、AP赤道儀くんの意識はもうろうとしてきました。
はじめて飼育小屋に来た日、飼育員さんが喜んでくれたっけ。
55FL先輩を背中に乗せて喝采を浴びた日、誇らしかったな。
遠征先で見た、空を覆い尽くす星々……。
AZ-GTi後輩に星の探し方を教えてあげた日……。
厳しくも楽しかった飼育小屋の日々……。
いまみんな、どうしてるのかな。
AP赤道儀くんが最後にその目で見たのは、ろうそくの光で照らされて壁に映った自分の影でした。
それから何時間たったでしょうか。横の台には、AP赤道儀くんのものだったパーツがいくつか取り出され、無造作に置かれていました。
人の子のような者は、AP赤道儀くんの目を見て言いました。
「お前に力を与えた」
「チカラ? ココハ、ドコダ? ワタシハ?」
「アルクトゥルスを指すが良い」
「ドウニュウ、レディ」
「導入補正をせよ」
「プレートソルビング、レディ」
指示の一つひとつに対し、操作の一つひとつが機械のように正確で、すべてが完ぺきでした。こうして、AP赤道儀くんは、かつてなかった力を手に入れ、彼の願いは叶ったのです。そして、その後も何年にもわたって星撮りに出かけては、たんたんと撮影を続けたそうです。
しかし、あとから聞いたところによると、あれからAP赤道儀くんは感情を表に出すことがなくなり、飼育小屋で過ごした仲間との日々や自分の名前さえも、ついに思い出すことはなかったということです。
この記事へのコメント
”AP赤道儀くんが最後にその目で見たのは、ろうそくの光で照らされて壁に映った自分の影でした。”とか、描写がポイントポイントで効いてますね。
面白かったです。
最後は心を無くしちゃうんですか!
ロボットになってしまったのか?ゴーストを与えてやってください!
カメラde遊ingさん、楽しんでいただいてありがとうございます! AP赤道儀くん、せめてゴーストが残っているといいのですが。これからどうなっていくのか私も心配です。しばらくは、彼の活躍を見守ってみたいと思います。
得意のにゃあ節だよね。^^
もとの性格が暗いので、どうしてもこうなってしまいます(笑) 最終的には、ハッピーエンドのほうがいいですかね?
ああ、力を手に入れたAPくん、なんだか悲しい結末に。このしっとりとした読後感がにゃあさんワールドですね。
あぷらなーとさん、読んでくださってありがとうございます!
改造していろんなことができるようになったので、それはそれで嬉しいのですが、天体導入に試行錯誤をしたり、極軸望遠鏡に悩んだり、二軸モーター化したり、いろいろ少しずつ乗り切ろうとしてきた思い出があるだけに、それらが一度に解決できてしまうことに一抹の寂しさを感じました。そんな心理が表に出たのかもしれません。なんか、矛盾していますが(笑)