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かわいそうなボーグ

東京の空は、黒く晴れわたっていました。なのに、BORG 55FLはそんな空を飼育小屋のなかから恨めしそうに見つめていました。Astro Nier NC77の開発過程で、鏡筒バンドなどがすっかり部品どりされてしまい、身包みが剥がされてしまって舞台に立てずにいたのです。

光学性能は絶対的に優位な55FLが、このままだと使い物になりません。軍部はいったい何を考えているのでしょうか。見兼ねた飼育員さんは、内緒で鏡筒バンドを仕入れてくることにしました。

60φの鏡筒バンドは、市場に出回ってはいるのですが、種類は多くありません。昔は少し安価な製品もあったようなのですが、今ではディスコンです。飼育員さんはため息をつきました。ある日、一つ変わった製品が目につきました。「K-ASTECか。少し高いが、軽そうだし試してみるか」。

返品できるわけでもないのに「試してみるか」はないでしょう。しかし、55FLが再び舞台に立てるならとこれに決めました。

「飼育員さん、ありがとう。でもバンドだけじゃ架台に乗れないんだよ」

足元を見てみると、アリガタがありません。部屋の隅にあった20cmのアリガタを履かせてみましたが、長さが接眼部にまで及んでしまい、カメラを回転させた時に干渉してしまいそうです。10cmくらいの短いアリガタが必要そうでした。

「また、パーツが増えるのか」。お財布の中身を気にしながらも飼育員さんは市場に出かけました。市場に出回っていた10cmのアリガタのトップは、中央に広いV字の溝が走っています。これだとK-ASTECのバンドにうまくねじ止めできません。アリガタのトップが平たくないといけないのです。少し不安でしたが、安めのパーツが揃っていて、種類も豊富な中国の市場に出かけてみることにしました。

「ヘラクレスビクセンスタイルアリ」。一瞬、どこで区切って読めばいいのかと悩みました。南米の毒アリの名前でもないようです。写真はアリガタでしたし、言いたいことは分かりました。トップは平らです。「少し試してみるか」。

「飼育員さん、ありがとう。これで架台に乗れるよ!」

55FLは喜んでAZ-GTiに飛び乗りました。しかし、飼育員さんは目を疑いました。あるはずの接眼部がないのです。

「カメラアダプタまで持って行かれたのか!」。飼育員さんは涙が止まりませんでした。

「飼育員さん、また一緒にお星さん撮れるかな」

「あぁ、撮れるともさ。その背中に最新式の電子ファインダーを載せてやるからな。もう少しの辛抱だ」。そう言いながら目をやった先には、かつて55FLが背負っていたアルカクランプさえなくなっていました。

「何が最終兵器だ、大口径だ! 軍部はNC77なんかじゃ勝てないって分からないのか! こんなことは二度と繰り返してはいけない!」

そんな声はよそに、基地には次から次へと増強資材が運び込まれていました。

それから何日が経ったでしょう。55FLと飼育員さんの姿は飼育小屋から消えていました。「飼育員さんとなら、いつかまた舞台に立てるんだ」。55FLは飼育さんに希望を託し、一緒に旅に出ました。

その飼育員さんこそ、軍部に資材を運び込んでいる張本人とは知らずに……。

この記事へのコメント

  1. 久しぶりにコメントしようと思ったのに、ネタが分からず右往左往するの巻

    • やはり「かわいそうなぞう」からのインスピレーションでしょうかねぇ。
      最後の旅が何のメタファーなのか気になって夜も寝られません。いや哀しいお話に見えて「サーカスのライオン」のような大活躍展開があるかも?

      • 「かわいそうなぞう」のニオイはしますが、色々と謎が残って、激しい残尿感に苛まれてます…

    • けむけむさん、あぷらなーとさん、はい「かわいそうなぞう」からのインスピです。絵本のとおりに進むと本当に悲しいことになってしまいます(T-T) 「サーカスのライオン」も悲しい話ですね。

      旅というほど大げさなものではないですが、ありがたいことに本業多忙のため、平日のお星さまからは少し離れます。たまにエントリーは投下するつもりですが、その間に、パーツ集めくらいはしようかなと。

      ストーリーは自分自身もやりきれず……
      残尿感は年のせいということにしておいてください……

      • 危うく粗相をしそうになってましたが、これでスッキリしました~

  2. 哀愁漂う名作!
    ぜひ絵本に(笑)

    ちなみに我が家で飼育している三つ子のBORG89EDも最近舞台に立てずに泣いているようです。ええ、いつの間にかビームスプリッタやマイクロフォーカサーまで外されて・・・。

    • 舞台に立てない望遠鏡たちがきっと全国に何頭もいるのですよね。あぷらなーとさん宅にも3頭そろっていたとはです(もらい泣き)

  3. この物語、絵本になりそう。
    旅先で55FLがブンブン唸っていることを願う。

    TB-60ASは、純正バンドよりもバンド全体で鏡筒を締め付け固定する感じで非常によさそう。

    • 是空さん、TB-60ASはいいですね。気に入りました。年内にぶん回せる日が来るといいのですが。だれか絵本にしてくれないかしら(笑)

  4. 泣きそう・゚・(ノД`)・゚・。」
    55FLさんはドナドナされてしまったのでしょうか?
    うちの55FLは鏡筒バンドは有りません。
    軽いたまカメラの三脚座で十分固定できるので。
    ってカメラアダプターも剥ぎ取られたのか・・・

    • せろおさん、ドナドナはしませんよ。気に入りの鏡筒ですし(なら、なぜ使わない?)。どう使うのが、自分にとっていいのか考え中です。そのうち晴れたら舞台に立たせます(たぶん)

      • まぁ、私も全然使ってないんですけどねぇ~
        FS-60CB、RedCat51、FL55SSと似たような鏡筒ばかり持っていて
        いずれも使っていなっていうね・・・
        取り敢えず晴れてくれ!

        • >FS-60CB、RedCat51、FL55SS
          数か月前に天リフ編集長が”今50-60㎜の望遠鏡が熱い”といったような記事を星ナビに書いていたけど、↑に55FLが加わればコンプリートですね。^^

        • せろおさん、コレクションとしての楽しみもありますよ。特に200mm前後の鏡筒はちょうど猫とかチワワの大きさに近くて手に抱きやすいので、愛でて違いを楽しむとか(笑)しかし、きょうも雨ですよ〜

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