轟々と叩きつける雨粒、荒れ狂う嵐。ある夜のことです。暗闇のなか、飼育さんが寝静まるのを待って、AP赤道儀先輩は後輩のAZ-GTiくんに、意を決したかのように話しかけました。
「キミは出番が多くていいな。最近、オレは星撮りに出かけてない」
AZ-GTiくんの足元を見ると、ビクセン製のAPP-TL130三脚を履いています。
AZ-GTiくんは、少し困った表情を浮かべました。AZ-GTiくんがAP赤道儀先輩から奪ったわけではありません。飼育員さんが「この三脚は、キミの方が似合うかもな」と言いながら、新しく買ってもらったばかりのRT90Cと早々に交換してしまったのです。AZ-GTiくんもカーボン三脚の方が履き心地が良くて気に入っていたのにです。
「この三脚は先輩のものですよ。ボクは先輩の三脚を奪おうなんて、これっぽっちも思っていませんから」
「じゃあ、返してもらえないかな。いまオレは裸足なんだよ。カーボン三脚は規格が違って履けないんだ」
AZ-GTiくんには何ともできません。飼育員さんが決めたことなのです。短い沈黙のあと、先輩が話を続けてきました。「オレはね、キミのように頭が良くないんだ」。
AZ-GTiくんは「頭が良い」と言われたのは初めてでした。先輩は、きっと自動導入とかPlateSolvingのことを言っているのです。
「自動導入なんて普通じゃないですか? そんなのみんなできますよ」と軽く返そうとしときに、はっと言いとどまりました。「そうか、先輩は自動導入ができないんだ」。
「オレは、オリオン座がどこにあるのか、シリウスがどこにあるのかさえ、よく知らないんだ。飼育員さんが、あっち向けと言えば、あっちを向くだけさ。キミより優れているとすれば、ちょっとだけ重い荷物を持てることだけだな。それだって、AVX先輩のように重いものを持てるわけじゃない」
風の唸り声と叩きつける雨粒が小屋に響き渡ります。「AZ-GTiくん、軍部って知ってるか?」
軍部。聞いたことはありました。クローズアップレンズを望遠鏡に転用しようとしたNC77計画。その遂行過程で、仲間のパーツが次々に奪われていった悲劇。それを主導した軍部。
「55FLさんという先輩がいただろう。NC77計画でね、彼はすべてを持っていかれたんだよ。鏡筒バンドだけでなく、アリガタやカメラアダプターまで持っていかれて、彼には何も残っていなかった。飼育員さんなら何とかしてくれるって最後まで健気に頼っていたんだが、その飼育員さんが軍部そのものだったって噂だぜ」
AZ-GTiくんは、なぜ先輩が軍部の話をしてくるのか、さっぱり理解できません。しかも、飼育員さんが軍部だって?
「NC77計画は失敗に終わったんだが、別の計画が進行しているらしい。見てみろよ。キミが着ているそのワンオフパーツ、後ろについているASI AIR PRO、雲台はビクセン、どれも高級品だ」
「先輩、何が言いたいんです?」
「歴史は繰り返すって言うだろう? オレたちの仲間が、オレたちのパーツで急に着飾りだし、新しい機材が運び込まれたとき、そこには軍部の意思があるってわけさ。オレの三脚、キミが履いているだろう?」
AZ-GTiくんは、信じられませんでした。最近、確かに飼育員さんは優しくしてくれているけれど、飼育員さんが軍部の張本人で、自分が軍に協力させられているなんて、まさか。
ぴかっ! そのとき稲妻が光りました。「その計画がうまくいけば、オレはいずれ用無しってことさ。この気持ち、キミに分かるか?」。稲妻の光に映し出された先輩の目は、悔しさで涙が溢れそうになっていました。
ベランダ撮影環境強化作戦――。その作戦名をAZ-GTiくんが知るようになるのは、しばらくあとのことでした。(つづく)
この記事へのコメント
軍部(笑)
飼育員さんは悪い人でつね。
いつかはaz-gtiも丸裸にされてしまうのかしら?
AP先輩はドナドナされてしまうの?
うちの軍部は作戦を立てない、行き当たりばったりの金食い無視です。
飼育員はしょっちゅう餌を忘れるポンコツです。
飼育員さんは極悪です(笑)大口を叩く割には無計画なので、ドナドナされるのはAZ-GTiくんのほうかもしれません…。
このテイストの物語記事、好きです。
飼育員さんの正体が軍部だったとは、機材達も騒然ですね。
恐ろしい恐ろしい(笑)
ちなみに、うちの機材達の間では「軍部にドナドナされないためには3本集結するしかない」という都市伝説が広まっていて、がんばって仲間を生やそうとしているようです。
3本集結、機材たちの知恵ですね。そして大きな舞台に立って、Hentaiへと変貌を遂げる……。素晴らしい成長譚ですね。間違いなく飼育員さんの育て方がいいのですよ!
ど、ど、ど、ドン勝… 違った
童話作家なったですかーッ!
童話作家で食えていけば愉快ですよね! アストロアーツさん、今なら格安で原稿書きますよ〜。って自分で考えてもない罠 orz
こんちはAP君。
ご先祖のGPドス\(//∇//)\
そんな凹まんでも大丈夫👌ぼくなんて、今の父ちゃんとこ来た時自動導入はおろか追尾も自分では出来なくて、北極星用の望遠鏡もなかったよd( ̄  ̄)
でも、秘密結社に改造されて、今では出来ないことは無いっくらい万能になって、巷では白い悪魔とまで言われてるんだ\(//∇//)\
そっちの軍部もそのうちクーデター起きるから大丈夫さ\(//∇//)\
我がビクセン家のGPさんですか? 改造されてしまったのですか? 痛くなかったですか? 怖くなかったですか? オレも強くなりたいです。そして昔のように、飼育員さんに星を撮りに連れていってもらいたいです!(泣)
昨日の記事をよんでいるときに、「かわいそうなボーグ(ぞうさん)」のテイストを感じていた。
やはり、こういう展開に・・・
次の展開、自分でも考えてないので、どうなるかさっぱり分かりません。是空さんには、この流れなら、こうなるだろうと先を読まれているような気がして、もぞもぞ(謎)しちゃいます(笑)
記事読んで感じたのですが、機材にとって(人も?)あまり使われることなく、興味がなくなったら売りに出される状況(当然あまり使われていないので商品価値あり)と、酷使されまくり、過労死状態まで徹底的にこき使われ、壊れてもうダメだと思っても持ち主に強制蘇生させられて、本当にボロ雑巾のようになるまでこき使われるのと(その後廃棄処分以外措置なし)どちらが幸せなんでしょうね。。。
深い話ですねぇ。大事に使ってくれる人のもとに行くのが幸せな気がします。しかし、その先でこき使われると同じ話になってしまいますが(汗)
案外、人間にとっては退職とかアーリーリタイヤというのは、キリをつけるためのいい制度や考え方なのかもしれませんよね。それまでにボロ雑巾はゴメンです(笑)
機材もどこかでリタイヤさせてあげるのがいいのでしょうか。実際、愛着があると手放しづらいですものね。