「ニュートン式反射望遠鏡の副鏡ってなぜ必要なんだろう? 写真を撮るならいらなくないか?」っていう素朴な発想で、副鏡のない「プライム・ニュートン式反射望遠鏡」を製作した。DSOの撮影など本格的な運用は、まだ始めてはいないけれど、月面の写真を見る限り、とてもシャープに写っていて、実用には耐えそうな感じがしている。
「プライム・ニュートン」シリーズのブログ記事にはコンスタントにアクセスがあるほか、3Dプリンタがあれば容易に製作できることもあり、関心を持っている方の参考になればと思って、ここに製作メモを残しておこう。
製作の経緯
もともと、あぷらなーとさんが取り組んでおられるクローズアップフィルターを使った望遠鏡作りが面白いと思って、「なんちゃって望遠鏡」を手始めに、いろんなレンズで屈折望遠鏡組んでいたのだけれど、BORGパーツを組み合わせるだけでは物足りなくなってしまった。
2020年7月に3Dプリンタを手に入れてからは、写真を撮るのと同じくらい望遠鏡パーツを作るのが楽しくなってしまい、パーツだけでなく鏡筒を作りたいと思うようになった。屈折式望遠鏡は、レンズの性能が望遠鏡の性能を決めるから、市販品並にいい望遠鏡を作ろうとするとどうしても高価になってしまう。なので、作るなら反射式望遠鏡だろうと思っていた。
初めにサイトロンさんのニュートニーで反射望遠鏡の構造とかを勉強しようと思っていたけれど、すぐに飽きてしまいそうだったので、最初から製作にかかることにした。一方で、反射式望遠鏡は、それはそれで斜鏡の部分とか作るのが面倒そうだったから、斜鏡のない望遠鏡を検討したところ、「斜鏡いらなくね?」となって、副鏡のないニュートン式反射望遠鏡を作ることになった。
これを何と呼ぶのが適切かわからないけれど、ひとまず「プライム・ニュートン式反射望遠鏡」と呼ぶことにした。
プライム・ニュートン式望遠鏡とは
本来、副鏡(セカンダリー・ミラー)を使うのに、これを取り去って短焦点化する改造を「プライムフォーカス化」ということは、なんとなく知っていた。主にシュミットカセグレン式望遠鏡(シュミカセ)で行われてるモディファイで、パーツも販売されているし、はじめから副鏡のない状態で設計されているRASA8のような望遠鏡もある。
プライム・ニュートンは、シュミカセと違ってプライムフォーカス化をしたからといって、焦点距離が短くなって、F値が小さくなるわけでもない。しかし、シュミカセのような補正板がないし、ニュートンのような斜鏡がいらないという点で、構造が単純で製作・メンテナンスがしやすいという特徴がある。
以下、76mm版プライム・ニュートンのメリット・デメリット的なものを紹介しておく。
メリット
- 一般的なニュートン式反射望遠鏡の鏡を使って作れるので、パーツの調達が簡単
- 斜鏡やクレイフォード、ラック&ピニオンのような重いフォーカサーがいらないので、部品点数が少なく済む。結果、軽量で低コストな望遠鏡が製作できる
- 副鏡の光軸調整がいらない。カメラと主鏡の光軸調整だけで済む
- 斜鏡の反射がないので、その分、光の反射ロスが少なく済む
- 中央遮蔽が大きくなるのを避けるため、小センサーカメラを使うので、コマ収差の影響が小さく、コマコレクターの必要をあまり感じない(というか装着できない)
- フォーカス部が横に突き出さないので、取り回しが良い
- あまり見かけない珍しいタイプの望遠鏡なのでドヤれる
4.の光の反射ロスが少なく済むというのは、プライム・ニュートン式が従来のニュートン式に対する最も大きなアドバンテージ。JISでは鏡(平面鏡)の反射率は83%以上と決まってるらしい。これが中国製の放物面鏡に当てはまる保証はどこにもないけれど、仮に反射率が83%の鏡を2枚使うと68%に落ちるところ、プライム・ニュートンでは、主鏡が反射した83%の光をそのままフルで使える。実際にどれくらいの差がでるかは分からないけれど、数値的に15ポイント差は大きいと思う。
デメリット
- 眼視ができない(笑)
- フィルターホイールやオートフォーカサーの装着など拡張性に乏しい
- フォーカス部の作り方にもよるが、光学的な補正が難しい
- 中央遮蔽が大きくなるため、使えるカメラに制限が出てくる
- 中央遮蔽が大きいと像のコントラストが低くなる
- 工夫をしないと、ダークやフラットの撮影が難しい
- バーティノフマスクが装着しにくい
デメリットの多くは、望遠鏡の構造的な問題、特に中央遮蔽の大きさに起因する。5.のコントラストに関しては、眼視はともかく、電子観望であれば、SharpCapの撮影中やポストプロセッシングのパラメータ調整でなんとでもなるので、気にしなくてもいいという話もある。
まとめると、プライム・ニュートン式望遠鏡は、斜鏡の反射がないので、光の反射ロスが少なく済むこと、カメラの選択、鏡筒の拡張性、光学的な補正には限度がありそうだけれど、構造が単純で自作しやすいし、メンテ・運用もしやすい。「電視観望なら圧倒的にこっちの方がいい」(シベットさん)ということだと思う。
ダークの撮影に工夫がいるというデメリットについても少し触れておく。Player One Ceres-Cを使うことで、事実上、ダーク撮影の必要がなくなる。DPS(Dead Pixel Suppression)テクノロジーが優秀で、ノイズがほとんど目立たない。SharpCapでもダークを引きながら写真を撮るという方法もあるので、救済策にはなる。ガチの天体写真を撮るのでなければ、この組み合わせで十分。まさに、電子観望に最適なのかもしれない。
製作記録的な
これまでの製作の経過はブログ記事にまとめてある(全15回+番外2)。前半(1〜10回)がプロトタイプ製作、後半(11〜15回)が一号機製作という構成になっている。
結果として出来上がったのは、主鏡直径76mm、焦点距離300mm、F値3.9、全長35cm、重量1.5kg。ほぼ3Dプリンタで印刷した樹脂製だけれど、フォーカス部と主鏡セル、金属ポール、アルカスイスプレートは市販品を使った。ヘリコイドフォーカサーも自作できないことはないけれど、精度が求められるパーツについては、市販品を使うほうがいいと思う。また。樹脂は金属に比べると、熱による膨張と収縮が大きいという話なので、金属で作るに越したことはないのかもしれない。
製作コスト
3万円もだせば、口径130mmの市販品(BKP130)が買えるなかでのコスト競争になるので、価格メリットだけを求めて望遠鏡を製作するメリットは大きくない。自分に合ったオーダーメイドな鏡筒が作れるとか、その製作過程が楽しいという部分の方がコストパフォーマンスより大きい。
実際、どれくらいのコストがかかったかというと次のとおり。主にAliexpressで部品を調達した。
- 金属ポール = @100円×5本=500円(ダイソー)
- 主鏡(D=76mm) = 3,400円(Aliexpress)
- ヘリコイド・フォーカサー = 3,600円(Aliexpress)
- 主鏡セル= 2,900円(Aliexpress)
- アルカスイスプレート(300mm) = 3,000円(アマゾン)
合計13,400円
あとフィラメント代とかネジ代とか諸々ある。
改善点
主にカメラのフォーカス部分。ヘリコイドを使っているのだけれど、ヘリコイドが主鏡に対して直交させて固定できるような調整機構が必要。現状、ヘリコイドと一体化しているスパイダーを傾けることはできるけれど、しっかりと固定することができていない。
中央遮蔽の大きさは、主鏡を大きくすることで改善するはずなので、より大きな主鏡を使って2号機を作りたいとも思う。そうしたら、QHY5IIIのスティックのり型だけでなくて、非冷却のASIカメラも使えるようになるはず。カメラのセンサーが大きくなると、コマ収差を補正しなければならなくなると思うので、課題が一つ増えると思う。
ほか、形状についても六角形は気に入ってるけれど、アルカスイスプレートやガイダーの取り付け位置とか工夫できそう。
まとめ
ブログに書いた以上に試行錯誤をしたので、フィラメントの産業廃棄物を大量に生み出してしまったけれど、製作過程は楽しかった。
少なくとも、うちのベランダで月面を観望する用途では、36EDよりもプライム・ニュートンの稼働数が多くなった。2つを厳密に比較したわけではないけれど、見える星の数はプライムニュートンの方が多い印象を持っている。口径が大きいので当然かもしれないけれど、口径で言うと、ベランダ用にセレストロンC5(D=125mm)があるけれど、取り回しに関しては口径76mmのプライムニュートンの方が取り回しがよい。
うちのベランダ用ラインナップでいうと、競合はBORG 71FL(FL=400mm, D=71, f=5.6)だろうと思う。使い勝手と写りは、ゆっくり比較していきたい。
私自身は、電子観望と天体写真撮影の差をあまり気にしていないんだが、Prayer NIER 385を使ったみんなで観望するような用途でも楽しいと思う。こういうのがプライムニュートン鏡筒に組み込まれて、製品化されたら、プアマンズeVscope的な発展を遂げることもできると思う。
本来なら、3Dプリンタですぐに印刷できるよう、STLを配布できるといいんだけれど、改善点は多いし、ところどころ怪しい部分もあって恥ずかしいのでやめておく(笑)
この記事へのコメント
使い込まれたペンチに視線が釘付け(꒪ཀ꒪)グハァ♡
こういうのメンテしたい・・・。
喜んでいただけて何よりです
凄いなぁ
どこかが製品化しそうなニオイがプンプンしますなぁ\(^^)/
私には一銭も入ってこなさそうですが!
すごい!
すばらしい!
今回は完全勝利なのでは?!
ぜひ色々な天体を撮影してみてください。
あぷらなーとさん、ありがとうございます。おかげさまです。屈折では色収差退治にだいぶ苦労しましたが、反射はそれがないぶん、気が楽ですね。いろいろ試してみます!
このシリーズとしてはエピローグかな?めでたしめでたし。^^bヨカッタヨ!!
プライム式のデメリットと言えるのかどうかわからないけど、左右反転像というもあるね。撮影専用でディジタル時代には鼻くそプッチンプリンな事だけどね。
コメントで既出だけど、ペンチの錆は何とかしたい。^^←道具フェチなもんで
ダイソーで手に入るクエン酸(錆落とし)と重曹(中和剤)があればきれいになるよ。
上記2点で予算200円。
あとは、ワイヤーブラシか使用済み歯ブラシがあれば更にいいかも。
必要ないと思うけど詳しいやり方はYoutubeにいっぱいあがっている。
グリップ部分も熱収縮チューブとかでリフレッシュできると思うよ。←未経験で言ってるので要注意
そうですね。エピローグになりましたね。次は大型化やろうと思います。
横入り失礼します
ゴム塗料を使うといい感じになりますよ。
液体ゴムとかゴムコーティング剤でググると出てきます。
自分は”Performix ゴム・コーティング剤”を使いますがバッチグーです。
ありがとうございます。必要になったら、また教えて下さい
これいいなぁ。組み立てキットとか、ディアゴスティーニでパーツが一つずつ届くとかやったらウケそう!
確かに「週刊 望遠鏡を作る」としてディア●スティーニさんとかが商品化してくれたらいいのになぁ。私も買います!
オメデトウゴザイマス!
小さな大作が堂々完成ですね。
・・・
チョト気が早いですが、続編が見てみたい・・・
エピソード#2「副鏡の復讐」ナーンチャッテね!
5月か6月になると思いますが、続編やるつもりです。作品名は、 作者不詳の平安文学「大鏡」です。まぁ、大きくないですが。一号機のアップデートもしていかないとですね。